神戸地方裁判所 平成元年(ワ)635号 判決 1991年7月26日
原告
丸山裕子
被告
藤原哲也
ほか一名
主文
一 被告らは、原告に対し、各自金七一一〇万七三九〇円及びこれに対する昭和六一年一二月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その一を被告らの、各負担とする。
四 この判決は、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、各自金一億三〇一三万三二六五円及びこれに対する昭和六一年一二月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 交通事故の発生
次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
(一) 日時 昭和六一年一二月二三日午前七時四五分ころ
(二) 場所 兵庫県養父郡養父町佐近山一三八番地の一先の県道八鹿山崎線(以下「本件道路」という。)上
(三) 加害(被告)車 被告藤原哲也運転の普通乗用自動車
(四) 被害者 原告
(五) 事故態様 加害者が、本件事故直前、本件道路上を大屋方面から八鹿方面へ向け東進し、右事故現場にさしかかつたところ、偶々、原告が右道路上左側に停車していた普通乗用自動車の前方を左から右へ横断しようとしたため、同人と衝突した。
2 被告らの責任原因
(一) 被告藤原哲也(以下「被告哲也」という。)は、被告車を運転して本件道路を時速約六〇キロメートルで東進中、常に法令に定められた最高速度を遵守するのはもちろん、自車の左前方約八八・二メートルの地点に停車車両を認め、その右側方を通過しようとしたのであるから、直ちに減速徐行したうえ、進路前方及び左右を注視し、進路の安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、早く通過しようとして指定最高速度を三〇キロメートル超過する時速約八〇キロメートルで漫然進行した過失により、本件事故を発生させた。
(二) 被告藤原伸一(以下「被告伸一」という。)は、本件事故当時加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。
(三) よつて、被告哲也には、民法七〇九条に基づき、被告伸一には、自賠法三条に基づき、両名連帯のうえ、原告が本件事故により被つた後記4主張の損害を賠償する責任がある。
3 原告の受傷内容、入院期間及び後遺障害の内容・程度
(一) 受傷内容
原告は、本件事故により胸髄損傷、両大腿骨骨折の傷害を受けた。
(二) 入院期間
(1) 公立八鹿病院(以下「八鹿病院」という。)
昭和六一年一二月二三日から昭和六二年三月二〇日まで八八日間
(2) 原外科
昭和六二年三月二一日から同年三月二四日まで四日間
(3) 大阪医科大学付属病院(以下「大阪医大病院」という。)昭和六二年三月二四日から同年六月二〇日まで八九日間
(4) 兵庫県立のじぎく療育センター(以下「のじぎく療育センター」という。)
昭和六二年六月二三日から昭和六三年三月二八日まで二八〇日間 合計四六〇日間
(三) 原告の本件受傷は、昭和六三年三月二八日症状固定し、両下肢痙性麻痺、麻痺性膀胱直腸障害、腰部以下の知覚障害等の後遺障害が残存した。(以下「本件後遺障害」という。)。
本件後遺障害は、自動車保険料率算定会損害調査事務所により自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一級八号に該当するとの認定を受けている。
4 損害
(一) 治療費自己負担分 金二八七万六四三二円
原告は、本件事故による入院治療の治療費として、金二八七万六四三二円を負担した。
(二) 入院雑費 金五九万八〇〇〇円
原告は、前記四六〇日間の入院中、一日当たり金一三〇〇円の雑費を支出した。
なお、原告の家族は、原告の入院先である大阪医大病院及びのじぎく療育センターに見舞に行くため自家用自動車を使用したが、その際に消費したガソリン代が不明であるので、入院雑費において考慮されるべきである。
1300(円)×460(日)=59万8000(円)
(三) 付添看護費 金一二〇万八九二八円
原告は、前記入院期間中の一九六日間、母親である丸山京子(以下「京子」という。)の付添看護を要し、京子は、右一九六日間勤めを欠勤して、原告の付添看護に当つたところ、一日当たりの付添看護費は、京子の平均給与日額金六一六八円(同人の本件事故直前三か月間の平均給与日額)を基準とすべきである。
したがつて、原告の付添看護費は金一二〇万八九二八円となる。
6168(円)×196(日)=120万8928(円)
(四) 交通費 金一七万六五五〇円
原告の家族は、原告が大阪医大病院及びのじぎく療育センターに入院中、原告を見舞うため自家用自動車を使用し、その際の高速道路(有料)代として合計金一七万六五五〇円を支出した。
(五) 装具購入費 合計金五九万一〇二〇円
原告は、昭和六二年三月から平成二年一月までの間に、(1)長下肢装具二組、(2)胸椎装具一組、(3)胸椎装具一組、(4)両長下肢装具一組、(5)両短下肢装具(夜間用)一組、(6)車椅子一台を購入し、以上の費用として金五一万八九七〇円を支出したほか、さらに(7)側彎矯正装具一組を購入し、金七万二〇五〇円を支出した。
(六) 通学用自動車購入費 金四三二万八〇〇〇円
(七) 住宅改造費 金二六六三万四八四〇円
(1) 原告宅は、昭和一四年に建築された古い木造二階建の農家の建物であつて、一階部分には和室四部屋(家族の居間である八畳間、祖父母の寝室兼居間である六畳間、仏間・客間・応接間を兼ねる縁側に面した四畳半と六畳間から成る。)、炊事場兼食堂(土間からあがつた板間)、便所及び浴室があり、二階部分には四部屋(両親の寝室、子供らの勉強部屋及び寝室)がある。
(2) 原告は、本件後遺障害によつて、下半身の随意運動がまつたく不可能となり、下半身の知覚が欠落しているため、家屋の内外を問わず、場所的移動には車椅子を必要とし、排泄及び入浴に介護を必要とする生活を余儀なくされ、終生原告宅で生活することが想定されるところ、かかる原告の住居として、原告宅の現状には、以下に述べるとおり不都合な点が存在する。すなわち、(イ)玄関の犬走りと地面の段差約二二センチメートル、玄関の戸のレール部分の高さ約四センチメートル、玄関内の土間と板間との高低差約三四・五センチメートルが、それぞれ存在するため、原告において単独で玄関から家に入ることが不可能な状態にある。(ロ)一階部分の和室四部屋と炊事場兼食堂の板間部分との間に約二五センチメートルの高低差があるため、原告が居間から炊事場兼食堂に移動する場合、家族が原告を抱きかかえてあがらなければならない。(ハ)浴室の入口は約六センチメートルの高さがあり、浴槽の高さも約二八センチメートルあるため、原告を入浴させる場合、京子が介護し、原告を抱きかかえて浴槽に入れている。(ニ)洗面設備の高さを車椅子にのつたまま使用できるよう調節を必要とする。(ホ)便所は和室のため、原告がこれを使用する場合には、一旦車椅子から抱き上げておろして貰い、原告がはう形で便器まで移動したうえ、便所の戸を開けたままの状態で、京子に約一〇分ないし一五分間下腹部を叩き続けて貰つて排泄を行つている。(ヘ)二階への階段が狭くて急のため、介護者がいても原告を二階にあげることができず、原告は、二階を利用し得ない。
(3) 原告及び家族にとつては、右(2)に述べた各事情から早急に原告宅を改造する必要があり、かかる住宅改造の必要性と程度については、(イ)原告の障害の程度及び介護者の負担、(ロ)リハビリの継続の必要性と褥瘡の予防、(ハ)思春期を迎える原告のプライバシーの保護と家族が原告の存在によつて住環境を悪化させないこととの両立の必要性、(ニ)介護者の負担の軽減化と家族の社会生活の保障、(ホ)家族の経済条件、(ヘ)原告宅の地理的、気象的条件等の観点を考慮することが必要不可欠である。
しかして、右改造に要する費用は、総額金二六六三万四八四〇円である。
(a) 玄関部分
原告が、独力で家に出入りできるように、門から玄関までを舗装し、犬走りをなくし、玄関内は車椅子による方向転換を可能にするだけのスペースを取り、玄関内の土間からホールに上がる方法としてテーブルリフター(油圧式の昇降機)を設置する。
(b) 屋内の高低差をなくす
一階内のホール、居間兼食堂、洗面、脱衣室、浴室兼リハビリ室、原告専用トイレの高低差をなくす。
(c) 専用トイレの設置
車椅子からの移乗が可能な専用トイレを設置することとし、トイレ内のスペースは車椅子による出入りが可能な程度の広さを取る。
(d) 一階の洋室兼リハビリ室
一階に、原告の個室として洋室兼リハビリ室を設けることとし、その最も重要な機能は、サニタリールームとして原告の排泄の準備、後始末、さらには排泄の訓練に使用することである。そのため、トイレのすぐそばに大人二人が作業できる広さで、かつ、プライバシーを保てる空間が必要である。
(e) 浴室
他の家族と共用にして、移乗、出入りの楽な浴槽を設置する。
(f) エレベーター
原告の二階への移動を可能にするためにホームエレベーターを設置する。
ホームエレベーターは、昭和六二年六月に建設省が基準を作成したことにより、一般木造住宅への設置が可能になり、従来から、障害者だけでなく、老人のいる家庭等からも需要が多く、現在、急速に普及しつつある。
(g) 二階の和室
奥の六畳間は子供の寝室、八畳間は両親の寝室である。
(h) 二階の洋間
二階の洋間は子供の勉強部屋兼原告の寝室であり、原告がこの部屋で姉、弟と共に勉強し、遊ぶことは、原告の精神的、人格的成長に役立ち、家族とのコミユニケーシヨンを深め、原告が孤独感に悩むことを防止するのに役立つ。
また、この部屋を原告の寝室とし、同人を両親の側で就寝させることは、原告の介護者である京子が夜中に原告の体位変換をしたり、マツサージをしたり、また、原告に生じる何らかの不測の事態に備えるなど、原告に対する介護上必要不可欠である。
(八) 将来の介護費用 金六〇七〇万六八〇〇円
原告は、昭和五三年四月五日生れの女子であるところ、本件後遺障害のため、将来にわたつて、学校への送迎、着脱衣、車椅子への乗降、排尿の介助、屋内の移動、就寝中の体位変換、おしめ交換等のため近親者の介護が必要である。
右介護のための費用 一日当たり金五五〇〇円、本件症状固定時九歳の原告の平均余命を七二・四九年として、原告の将来の看護費用の現価額を年別の新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次の計算式のとおり金六〇七〇万六八〇〇円となる。
5500(円)×365(日)×30.24=6070万6800(円)
(九) 後遺障害による逸失利益 金二八四四万四九三七円
原告は、昭和五三年四月五日生れの女子であるところ、本件後遺障害により、終生にわたつてその労働能力を一〇〇パーセント喪失したから、その就労可能年数を満一八歳に達する日から六七歳までの四九年間とし、算定の基礎となる満一八歳の平均賃金を月額金一二万一一〇〇円として、原告の将来の逸失利益の現価額を年別の新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次の計算式のとおり金二八四四万四九三七円となる。(ただし、満九歳に適用すべき新ホフマン係数は、一九・五七四。)
12万1100(円)×12(月)×19.574=2844万4937(円)
(一〇) 慰謝料 合計金二六一〇万円
(1) 入院分 金三一〇万円
(2) 後遺障害分 金二三〇〇万円
原告は、現在わずか一一歳の女子であるが、本件後遺障害による両下肢痙性麻痺のため、両下肢の自動運動は完全に不可能であり、腰部以下の知覚が脱失しているうえ、麻痺性膀胱直腸障害のため、おしめを使用せざるを得ず、その他、背柱に麻痺性側彎、下肢の短縮もあり、かかる障害は終生残るばかりか、背中変形、両下肢間接の拘縮の進行、増強の可能性もあることなどの事情を斟酌すると、原告の後遺障害慰謝料は金二三〇〇万円が相当である。
(一一) 損害の填補 金二五〇〇万円
原告は、本件事故による損害の填補として、自賠責保険から後遺障害について金二五〇〇万円の支払を受けた。
(一二) 弁護士費用 金八〇〇万円
原告は、本件訴訟の提起とその追行を弁護士である原告訴訟代理人らに委任し、相当額の報酬の支払を約したが、原告が被告らに対し、本件事故による損害として請求し得る弁護士費用の額は金八〇〇万円が相当である。
(一三) 以上、右(一)ないし(一〇)の合計額から(一一)の損害の填補分を控除した残額に(一二)の弁護士費用を加えると、金一億三〇一三万三二六五円となる。
5 よつて、原告は、被告哲也に対しては民法七〇九条に基づき、被告伸一に対しては自賠法三条に基づき、被告ら各自に対し、本件損害賠償として金一億三〇一三万三二六五円及びこれに対する本件不法行為の翌日である昭和六一年一二月二四日から右各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する被告らの答弁
1 請求原因1の各事実は認める。
2(一) 同2(一)のうち、被告哲也が停車車両を確認した地点及び加害車の速度は争い、その余の事実は認める。
(二) 同2(二)は認める。
(三) 同2(三)の主張は認める。
3 同3(一)及び(二)の各事実は認め、(三)のうち原告の本件受傷が症状固定し後遺障害が残存した事実は認めるが、その余の事実は争う。
4(一) 同4(一)の事実は認める。
(二) 同4(二)のうち原告主張の一日単価の相当性を争い、その余の事実は認める。右単価は一日当たり金八〇〇円の割合が相当である。
(三) 同4の事実及び主張(三)は争う。なおのじぎく療育センターへの入所は、リハビリ目的であり、付添看護を要しない。
(四) 同4(四)の事実は否認し、その主張は争う。
(五) 同4(五)のうち、原告が(1)ないし(6)の装具及び車椅子を購入し、その費用として金五一万八九七〇円を支出した事実は認めるが、その余の事実は争う。
(六) 同4(六)の事実は認める。
(七) 同4(七)のうち原告主張の住宅改造の必要は認めるが、その余の事実及び主張は争う。本件住宅改造費は、金六四八万円が相当である。
原告主張の住宅改造費は、福祉目的からの理想には合致したとしても、損害の公平な分担という損害賠償制度の目的に照し、余りにも過大というべきである。
(八) 同4(八)のうち原告主張の将来の介護費用の必要は認めるが、その余の事実及び主張は争う。
本件における将来の介護費用は、京子の昭和六一年度分の収入金二四四万二二一五円を基礎に、原告が満一八歳になるまでの九年間について新ホフマン方式により(係数七・二七八二)中間利息を控除して得られる金一七七七万四九二九円が相当である。
(九) 同4(九)のうち原告に本件後遺障害そのものが残存する事実は認めるが、その余の事実及び主張は争う。
原告は、一八歳になれば知的労働に就くことができるから、形式的に労働能力の一〇〇パーセント喪失というのは実情に合わない。それ故、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表の第五級二号を準用して、その労働能力の七九パーセントを喪失したとするのが妥当である。また、原告の体力面から同人が六七歳まで生命を維持することには危惧も存する。
これらの各事実に基づけば、原告の将来の逸失利益は、金二二四七万一五〇〇円が相当である。
(一〇) 同4(一〇)のうち原告が本件入院及び後遺障害の残存により精神的苦痛を被つた事実は認めるが、その余の事実及び主張は争う。
原告の本件慰謝料のうち入院分としては金三〇〇万円、後遺障害分としては金一五〇〇万円が相当である。
(一一) 同4(一一)の事実は認める。
(一二) 同4(一二)の事実及び主張は争う。
(一三) 同4(一三)の主張は争う。
5 同5の主張は争う。
三 抗弁
1 過失相殺
本件事故は、原告が右事故直前原告の母京子が運転する停車車両の陰から左右の道路状況を確認しないまま急に飛び出して被告車の前方を横断しようとしたため、発生した。
右事実から明らかなとおり、右事故発生には、原告側の極めて大きな過失も寄与している。
よつて、原告側の右過失は、原告の本件損害額の算定に当たり斟酌されるべきである。
2 損害の填補
原告は、本件損害に関し、自賠責保険から後遺障害について金二五〇〇万円の支払を受けたほか(請求原因4(一一))、傷害分として金四五三万二二四二円の支払を受けた。
よつて、原告の右受領金合計金二九五三万二二四二円は、原告の本件損害に対する填補として、右損害額から控除されるべきである。
四 抗弁に対する原告の答弁
1 抗弁1のうち原告が本件事故直前被告車の前方を横断しようとしたこと、京子の運転する車両が右事故当時右事故現場附近に停車していたこと、被告車と原告が衝突して右事故が発生したこと、以上の各事実は認めるが、その余の事実及び主張は争う。
(一) 原告が、本件事故現場道路に急に飛び出した事実はないし、原告の右道路を横断しようとした目的が、歩道上の子供達と合流することにあり、その子供達のいた場所が本件事故現場から一〇メートルほど後方であつたことからすると、原告が急いで前記道路を横断する理由はない。したがつて、原告が被告ら主張の態様で急に飛び出す筈もなかつたというべきである。
よつて、原告には、被告らが主張するような過失はない。
(二)(1) 仮に、原告の方に、本件事故発生に関し左右の安全確認が不十分であつた過失が認められるとしても、当時原告が八歳の児童であつたことからすれば、その過失割合は極めて小さい。これに対し、被告哲也において、右事故直前安全確認をせず、被告車を時速八〇キロメートルの高速度で対向車線上を走行させた過失の方が極めて大きい。すなわち、
(イ) 被告哲也は、右事故直前児童数人が右事故現場附近の歩道を歩いているのを視認していた。それ故、被告哲也としては、児童が本件道路に飛び出す等の行動に出ることを予測して、より慎重に自車を運転すべきであつた。
(ロ) 本件事故現場は大きく右にカーブし、さらに地上から約四〇センチメートルないし七〇センチメートルの高さで設置された歩道とその上の約七〇センチメートルのフエンスにより、被告車走行方面よりする前方の見通しは極めて悪いから、被告哲也が本件事故直前に採つたような対向車線にはみ出して追い越しをかける行為は極めて危険であつた。
(ハ) 京子が本件事故当時停車させていた自動車(ワゴン車)には点滅ランプが作動していたから、被告哲也において停車中の右自動車内に人がいることがわかつた筈である。
したがつて、同人には、右自動車から人が降車してくる可能性を当然予測し得た筈である。
(2) 以上のとおり、被告哲也の本件における過失は、極めて大きいというべきである。
2 抗弁2の事実は認める。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録各記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 本件事故の発生
請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
二 被告らの本件責任原因
1 被告哲也関係
(一) 請求原因2(一)の事実は、被告哲也が停車車両を確認した地点及び被告車の速度を除いて、当事者間に争いがない。
(二) いずれも成立に争いのない乙第三号証の七ないし一〇、一四、原告法定代理人丸山京子本人尋問の結果を総合すると、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。
(1) 被告哲也は、本件事故当時、被告車を運転して、本件事故現場である道路の東行き車線を時速約六〇キロメートルで東進し、本件事故現場附近にさしかかつた際、自車の左前方約八八・二メートルの地点に停車車両を認めたので、その右側方を通過しようと考えた。
(2) 本件事故現場道路の北側は水田が続き、その南側には車道に沿つて、車道から〇・四メートルの高さの位置に設置され、両側をフエンスで防護された歩道が続いている。
(3) 学童数名が、右事故当時、通学のため右歩道上を歩行し、かつ、右停車車両は左折の方向指示灯を点滅させていた。
(4) 被告哲也は、右状況下で、一刻も早く右停車車両の側方通過を終えようと焦慮し、偶々自車対向車線上に進来する対向車がなかつたことから自車の進路を対向車線に変更したうえ、自車の速度を指定最高速度を三〇キロメートル超過する時速八〇キロメートルに加速し、右停車車両の右側方を進行させ、その結果、本件事故を発生させた。
(三) 右当事者間に争いのない事実及び右認定各事実を総合すると、被告哲也は、減速徐行、自車前方及び左右の安全確認の各注意義務に違反する過失により本件事故を惹起したというべきである。
よつて、被告哲也には、民法七〇九条により、原告の被つた後記四の損害を賠償すべき責任がある。
2 被告伸一関係
被告伸一が本件事故当時被告車を所有し、自己のために運行の用に供していたことは、当事者間に争いがない。
よつて、被告伸一には、自賠法三条により、原告の被つた後記四の損害を賠償すべき責任がある。
3 被告らは、本件事故の共同不法行為者と認めるのが相当であるから、同人らは、連帯して原告の右損害を賠償すべきである。
三 原告の本件受傷内容、入院期間及び後遺障害の内容・程度
1 原告が、本件事故により胸髄損傷、両大腿骨骨折の傷害を受け、(一)八鹿病院に本件事故当日の昭和六一年一二月二三日から昭和六二年三月二〇日まで八八日間、(二)次いで、原外科に昭和六二年三月二一日から同年三月二四日まで四日間、(三)次いで、大阪医大病院に昭和六二年三月二四日から同年六月二〇日まで八九日間、(四)さらに、のじぎく療育センターに昭和六二年六月二三日から昭和六三年三月二八日まで二八〇日間各入院したこと(入院期間は合計四六〇日間)は、当事者間に争いがない。
2 成立に争いのない甲第一四、一五号証及び弁論の全趣旨によると、原告の本件受傷は、昭和六三年三月二八日症状固定し、それに伴い、同人に両下肢痙性麻痺、麻痺性膀胱直腸障害、腰部以下の知覚障害等の後遺障害が残存(「本件後遺障害」)したこと、本件後遺障害は、自動車保険料率算定会損害調査事務所により自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一級八号に該当するとの認定を受けていることが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
四 原告の本件損害
1 治療費自己負担分 金二八七万六四三二円
原告が、本件事故による入院治療費として金二八七万六四三二円を負担したことは、当事者間に争いがない。
2 入院雑費 金五〇万六〇〇〇円
本件事故と相当因果関係に立つ損害(以下、本件損害という。)としての入院雑費は、一日当たり金一一〇〇円と認めるのが相当であるから、原告の本件入院期間四六〇日の入院雑費は金五〇万六〇〇〇円となる。
なお、原告は、原告の家族において原告の入院先である大阪医大病院及びのじぎく療育センターに見舞に行くため自家用自動車を使用したが、その際に消費したガソリン代が不明であるので、入院雑費において考慮されるべきであると主張するが、本件損害としての入院諸雑費としては、(一)日用品雑貨費、(二)栄養補給費、(三)通信費、(四)文化費がこれに含まれるものの、原告主張の如きガソリン代はこれに含まれないと解されるから、本件入院雑費において右ガソリン代を考慮するのは相当でないというべく、原告の右主張は理由がない。
3 付添看護費 金八八万二〇〇〇円
(一) 原告の本件入院期間が四六〇日であることは、当事者間に争いがない。
(二) いずれも成立に争いのない甲第一六号証ないし第一八号証、第一九号証の一、二、原告法定代理人丸山京子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告の右入院期間中一九六日間は付添看護を要する状態にあり、その間原告の母京子が付き添つていたことが認められるところ、本件損害としての近親者の入院付添費は一日当たり金四五〇〇円と認めるのが相当であるから、一九六日間で金八八万二〇〇〇円となる。
(三) 原告は、本件付添看護費の算定基準として京子の平均給与日額を主張するが、原告の右算定基準は、客観性を欠き本件損害としての近親者付添看護費算定のための基準として相当でない。
よつて、原告の右主張は、当裁判所の採用するところではない。
なお、被告らは、原告がのじぎく療育センターへ入所した目的はリハビリのためであるから、のじぎく療育センターに入院していた期間については付添看護を要しない旨を主張する。しかしながら、前掲甲第一九号証の二によると、京子は、原告がのじぎく療育センターに入院中約五六日間付添看護したことが認められるところ、前掲甲第一六号証、原告法定代理人丸山京子本人尋問の結果によると、原告は、のじぎく療育センターに入院当時九歳(昭和五三年四月五日生)であつたが、右入院中、排尿とカテーテルの介護を他人よりも母親である京子にして貰うことを強く希望したため、京子が付添看護したことが認められ、右認定事実に原告の本件症状の内容・程度を合せ考えるならば、原告がのじぎく療育センターに入院していた期間中においても、なお近親者の付添看護を必要としたと認めるのが相当である。
よつて、被告らの右主張は採用することができない。
4 交通費 金一七万六五五〇円
いずれも成立に争いのない甲第二〇号証の一ないし一二及び原告法定代理人丸山京子本人尋問の結果によれは、京子及び原告の付添いや見舞いのため、自宅から原告の入院先である大阪医大病院とのじぎく療育センターまで自家用自動車で往復し、その際、高速道路料金として合計金一七万六五五〇円を支出したことが認められ、右交通費は、前記認定にかかる原告の年齢、原告の本件症状、弁論の全趣旨によつて認められる原告家族らの自宅と入院先との距離等に照らし、本件損害と認めるのが相当である。
5 装具購入費 合計 金五九万一〇二〇円
原告主張の装具購入費のうち、原告が、(1)ないし(5)の装具及び(6)の車椅子一台の購入費として合計金五一万八九七〇円を支出したことは当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない甲第三九号証の一ないし三及び原告法定代理人丸山京子本人尋問の結果によると、原告は、本件受傷治療のため、更に、平成二年一月八日、側彎矯正装具を購入し、その費用として金七万二〇五〇円を支出したことが認められる。
そこで、本件損害としての装具購入費は、合計金五九万一〇二〇円となる。
6 通学用自動車購入費 金四三二万八〇〇〇円
原告が、通学用自動車購入費として金四三二万八〇〇〇円を要することは、当事者間に争いがない。
7 住宅改造費 金七五〇万円
(一) 原告主張の住宅改造の必要については、当事者間に争いがない。
(二)(1) 成立に争いのない乙第四号証、いずれも証人春山満の証言により真正に成立したものと認められる甲第三三、第三四号証、いずれも原告主張の写真であることについて争いのない検甲第一号証ないし第二四号証、証人春山満の証言、原告法定代理人丸山京子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。
(イ) 原告宅は、昭和一四年に建築された古い木造二階建の農家の建物であつて、原告、原告の父母、姉、弟及び祖父母が同居し、現在、一階部分には和室四部屋(家族の居間である八畳間、祖父母の寝室兼居間である六畳間、仏間・客間・応接間を兼ねる縁側に面した四畳半と六畳間から成る。)、炊事場兼食堂(土間からあがつた板間)、便所及び浴室並びに車庫(現在は倉庫)があり、二階部分には四部屋(両親の寝室、子供らの勉強部屋及び寝室)がある。
(ロ) 原告は、本件後遺障害によつて、下半身の随意運動がまつたく不可能となり、下半身の知覚が欠落しているため、家屋の内外を問わず場所的移動には車椅子を必要とし、排泄及び入浴に介護を必要とする生活を余儀なくされ、終生原告宅で生活することが想定されている。
(ハ) しかるに、原告宅の現状では、
(a) 玄関の犬走りと地面とにかなりの段差があり、玄関の戸のレール部分の存在や、玄関内の土間と板間との高低差もかなりあるため、原告が車椅子に乗つたまま独力で家に入ることが不可能であることは勿論、介護者にも多大の負担を負わせる状態にある。
(b) 一階部分の和室四部屋と炊事場兼食堂の板間部分との間にかなりの高低差があるため、原告が居間から炊事場兼食堂に移動するためには、家族が原告を抱きかかえてあがらなければならない。
(c) 浴室の入口が若干高く、浴槽の高さも洗い場からかなりの高さがあるため、原告を入浴させる際には、母親京子が介護し、原告を抱きかかえて浴槽に入れている。
(d) 便所は狭隘な和式のため、原告がこれを使用する場合には、一旦車椅子から抱き上げておろして貰い、原告がはう形で便器まで移動したうえ、便所の戸を開けたままの状態で、京子に約一〇分ないし一五分間下腹部を叩き続けて貰つて排泄を行つている。
(2) 右認定各事実を総合すると、原告主張の本件住宅改造は、早急に着手する必要があるというべきである。
(三) そこで、本件損害としての住宅改造費の具体的内容について判断する。
(1) 右住宅改造費の具体的内容は、被害者である原告の受傷の内容、後遺障害の内容・程度を具体的に検討し、他方、損害賠償制度の理念の一つである損害の公平な分担をも考慮し、社会通念上その必要性・相当性の範囲内でこれを認めるのが相当である。
右見地に則り、原告の本件住宅改造費に関する主張を検討する。
(2)(イ) 原告の右主張にそう証拠として、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三一号証、証人春山満の証言により真正に成立したものと認められる甲第三二号証、右証人の証言、原告法定代理人丸山京子本人尋問の結果があり、右各証拠によれば、原告の右主張はすべてこれを是認できるかの如くである。
(ロ) しかしながら、当裁判所としては、右結論をそのまま是認することはできない。
蓋し、右結論は、原告の立場を強調する余り、前記説示にかかる損害の公平な分担の理念を逸脱し、被告らに過酷な負担を強いる結果となるからである。
(ハ) 当裁判所の認める本件住宅改造費は、次のとおりである。
右(イ)掲記の各証拠によつても、原告宅の改造の主要目的は、(い)玄関から車椅子で建物内に入れるようにする、(ろ)車椅子による移動を容易にするため、玄関、食堂、便所、洗面所及び浴室と居間との間に存在する段差を解消する、(は)便所及び浴室を身体障害者用のものにする、以上の三点に集約されるところ、右見地に右認定にかかる右主要目的を加え、更に原告の右主張を吟味すると、原告宅の改造は、右(イ)において認められる原告の右主張のうち、(Ⅰ)原告が独力で建物内に出入りできるようにするためには、単にスロープを設置するだけではその距離と傾斜角度から危険であり、むしろ、門から玄関までを舗装し、犬走りをなくし、玄関内は車椅子による方向転換を可能にするだけのスペースをとり、玄関内の土間からホールに上がる方法としてテーブルリフター(油圧式の昇降機)を設置すること、(Ⅱ)一階部分のホール、居間、炊事場兼食堂、洗面所、便所、浴室の高低差をすべて解消すること、(Ⅲ)車椅子からの移乗が可能なトイレを設置することとし(家族と共用)、トイレ内のスペースを車椅子による出入りが可能な程度の広さを確保すること、(Ⅳ)他の家族と共用にして、移乗、出入りの容易な浴槽を設置することをもつて、前記説示にかかる必要かつ相当な範囲内の改造と認めるのが相当である。
(3) 次いで、本件損害としての住宅改造費の具体的金額は、右(2)における認定各事実を基礎とし前掲甲第三一号証、乙第四号証の各記載内容を検討のうえ、その枠内の金七五〇万円をもつて相当と認める。
8 将来の介護費用 金四九四九万四六〇二円
(一) 原告の本件受傷内容・入院期間及び後遺障害の内容・程度は、前記認定のとおりである。
(二)(1) 右認定各事実と前掲甲第一四号証、いずれも成立に争いのない甲第三〇号証、第三七号証、原告法定代理人丸山京子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、昭和五三年四月五日生まれの女子であるところ、同人は、本件後遺障害によつて下半身の随意運動がまつたく不可能となり、下半身の知覚が欠落しているため、現在、学校への送迎、着脱衣、車椅子への乗降、排泄及び入浴、屋内の移動、褥瘡防止のための就寝中の体位変換、おしめ交換等につき、常時母親京子の監視と介護を必要とし、かかる近親者による介護の必要は、終生続くものと認められる。
(2) 被告らは、原告の将来の介護費用を同人が満一八歳に達する九年間に限定すべきである旨主張する。
しかし、右主張は、これを認めるに足りる客観的証拠がなく、採用できない。
(三) そして、前掲甲第三〇号証によれば、原告の排尿における衛生的管理と尿路系感染に対する適切な治療が行われれば、本件事故による胸髄損傷、両下肢麻痺の障害によつて、原告の生命的予後が左右されることはないと認められるから、少くとも向後、原告の症状固定時(満九歳)の平均余命である七二年間(ただし、昭和六一年度簡易生命表による。)一日当たり金四五〇〇円の介護費用を要すると認めるのが相当である。
(四) 右認定各事実を基礎として、原告の将来の介護費用の現価額を年別新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次の計算式のとおり金四九四九万四六〇二円となる。(三〇・一三三七は、新ホフマン係数。円未満切捨て。以下同じ)
4500(円)×365(日)×30.1337=4949万4602(円)
9 後遺障害による逸失利益 金二八四四万四九三六円
(一) 原告の本件後遺障害の内容・程度、同人の右障害に基づく現況等は、前記認定のとおりである。
(二)(1) 右認定各事実と前掲甲第一四号証、第三七号証、成立に争いのない甲第三八号証、原告法定代理人丸山京子本人尋問の結果を総合すれば、原告は、麻痺性膀胱直腸障害によつて尿意を感ずることができないために、おしめを使用しているが、右臀部に生じた褥瘡の悪化を避けるために、常時母親の京子から導尿、排尿の介助を受け、将来自ら排便の管理をなし得るか否かも定かでなく、仮に将来これをなし得るとしても、失禁は不可避であるし、車椅子の使用による褥瘡の発生も深刻であること、更に、原告には、その他に、背柱に麻痺性側彎、下肢の短縮もあり、背中変形、両下肢関節の拘縮の進行、増強の可能性があると見られ、前記の障害が回復する見込みはないことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
(2) 右認定各事実を総合すると、原告は、本件後遺障害のため、本件症状固定日の昭和六三年三月二八日からその労働能力を一〇〇パーセント喪失し、したがつてまた将来就労による収入取得の可能性もなくなつたというべきである。
(3) そして、原告の排尿における衛生的管理と尿路系感染に対する適切な治療が行われれば、本件事故による胸髄損傷、両下肢麻痺の障害によつて、原告の生命的予後が左右されることがないと認められることは、前記認定のとおりであるから、原告は、本件事故にあわなければ、満一八歳に達する日から六七歳までの四九年間、少なくとも昭和六三年度賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計、女子労働者学歴計の一八歳の平均賃金を得ることができたと推認されるところ、右平均賃金の年収は、原告の主張するところにしたがい、年収額金一四五万三二〇〇円と認めるのが相当である。
(4) 右認定各事実を基礎として、原告の将来の逸失利息の現価額を年別新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次の計算式のとおり金二八四四万四九三六円となる。(一九・五七四は、満九歳に適用すべき新ホフマン係数)
145万3200(円)×19.574=2844万4936(円)
10 慰謝料 金二三〇〇万円
前記認定の原告の受傷の内容、治療経過、本件後遺障害の内容・程度、入院期間、原告の年齢等諸般の事情を総合すれば、原告に対する慰謝料としては金二三〇〇万円をもつて相当と認める。
11 以上1ないし10の認定に基づくと、原告の本件損害の合計額は、金一億一七七九万九五四〇円となる。
五 過失相殺
1(一) 抗弁事実のうち原告が本件事故直前被告車の前方を横断しようとしたこと、京子の運転する車両が右事故当時右事故現場附近に停車していたこと、被告車と原告が衝突して右事故が発生したことは、当事者間に争いがなく、右事故現場附近の右事故直前における交通状況、被告車の右事故直前における動向、被告哲也の過失の内容等は、前記認定のとおりである。
(二) 前掲乙第三号証の七ないし一〇、一四、原告法定代理人丸山京子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。
(1) 本件事故現場のある道路は、大屋方面(西方)から八鹿方面(東方)へ通じる車道幅員五・五メートルのアスフアルト舗装路であり、中央線により二車線(右事故現場附近では東行き車線の幅員二・八メートル、西行き車線の幅員二・七メートル。)に区分されている。
右道路は、右事故現場から西方八八・二メートル附近まで右カーブ(ただし、東行き車両を基準。)であるが、右地点附近からほぼ直線状をなし、右地点附近より右事故現場を通過して更に東方へ約一五〇メートル進行した地点附近から再び見通しの悪い右カーブとなつている。
右事故現場は、非市街地で、交通量は普通である。
なお、右事故当時の天候は晴、路面は乾燥していた。
(2)(イ) 原告は、右事故当時八歳の児童であつたが、通学先の小学校に登校すべく、母親京子の運転する普通乗用自動車(ワゴン車)に同乗し、右事故現場附近にさしかかつた。
(ロ) 京子は、その時、右道路の南側に続く前記歩道(前記認定のとおり、車道に沿つて、車道から〇・四メートルの高さの位置に設置され、両側をフエンスで防護されている。)上を通行中の原告の姉らを認めたことから、原告に対し、姉と一緒に登校するかどうか意向を尋ねた。原告が、これに対し、「姉と一緒に行く。」と答えたため、京子は、原告を同所附近で下車させて、右車道と歩道との間に設けられたフエンスとフエンスの間の切れ目から、原告を歩道上にあがらせるべく、本件事故現場附近の東行き車線上に右普通乗用自動車を停車させた。
なお、右東行き車線の幅員は、右停車により、残余〇・九メートルの幅員しかなくなつた。
(ハ) そして、原告は、右普通乗用自動車助手席の後部座席から、ランドセルを背負い、習字道具等を入れた手提げかばんを持つて下車し、右停車車両の前方からいきなり右道路を右歩道側まで横断しようとして、右車道内を南方に向け走り出し、右車道西行き車線内の中央附近の地点まで至つた時、折から進行してきた被告車と衝突し、本件事故が発生した。
2(一) 右認定各事実を総合すると、本件事故の発生には、原告の停車中の車両の前方から左右の安全を確認せず、突然横断しようとした過失も寄与しているというべく、原告の右過失は、同人の本件損害額を算定するに当たり斟酌するのが相当である。
(二) なお、原告の右事故当時の年齢は前記認定のとおりであつて、右認定事実に基づくと、同人には、当時、事理弁識能力があつたと認められる。
3(一) しかして、右斟酌する原告の過失割合は、前記認定の本件全事実関係に基づき、二〇パーセントと認めるのが、相当である。
(二) そこで、原告の前記認定にかかる本件損害額金一億一七七九万九五四〇円を右過失割合で過失相殺減額すると、原告が被告らに対して請求し得る本件損害額は、金九四二三万九六三二円となる。
なお、右認定説示を妨げるべき特段の事由の主張立証はない。
六 損害の填補 金二九五三万二二四二円
原告が、本件損害に関し、その填補として、自賠責保険から後遺障害について金二五〇〇万円の支払を受けたほか、傷害分として金四五三万二二四二円の支払(合計金二九五三万二二四二円)を受けたことは、当事者間に争いがない。
そこで、原告が受領した右金員を同人の本件損害に対する填補として、前記認定の損害金九四二三万九六三二円から控除すると、原告が被告ら各自に対し請求し得る本件損害額は、金六四七〇万七三九〇円となる。
七 弁護士費用 金六四〇万円
前記認定の本件全事実関係に基づくと、本件損害としての弁護士費用は、金六四〇万円と認めるのが相当である。
八 結論
1 以上の全認定説示に基づき、原告は、被告ら各自に対し、本件損害金七一一〇万七三九〇円及びこれに対する不法行為(本件事故)の日の翌日であることが当事者間に争いがない昭和六一年一二月二四日から右各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を請求し得る権利を有するというべきである。
2 よつて、原告の本訴各請求は、いずれも右認定の限度で理由があるからその範囲内でこれらを認容し、その余はいずれも理由がないからこれらを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 鳥飼英助 三浦潤 亀井宏寿)